主人公・葉野珠(はの たま)のモデルは、山口県岩国出身の作家・宇野千代(1897〜1996)。彼女は大正10年(1921)、『時事新報』の懸賞短編小説に『脂粉の顔』で一等入選し、賞金200円を得ました。これが作家デビューになります。
この記事では、その賞金200円が今のいくらにあたるのかを、3つのものさしで換算します。
『脂粉の顔』の賞金200円は今いくら?
結論:賞金200円は、今のおよそ14万円〜294万円です。
| ものさし | 賞金200円 ≒ 今の | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 企業物価指数(大正10年) | 約14万円 | モノの値段で比べる |
| 米価(白米10kg・東京) | 約28万〜92万円 | お米の値段で比べる |
| 給料(巡査の月給) | 約98万〜294万円 | もらう側の感覚で比べる |
「200円」と聞くと「今の200円?」と思ってしまいますが、給料の感覚でみると今の100万〜300万円。現代でいえば、一等の賞金で生活の軸が一本できるような金額です。モノの値段でみると約14万円で、ものさしによって20倍近い開きが出ます。
当時の公務員の初任給は70円程度でしたから、200円は初任給の約3か月分。一編の短編小説で、それだけの金額が動いたのです。
そもそも『時事新報』の懸賞小説とは?
『時事新報』は、明治15年(1882)に福澤諭吉が創刊した新聞で、戦前の五大新聞の一つです。「国権皇張」「不偏不党」を掲げ、経済を重視する紙面で知られました。
この懸賞短編小説は、大正9年(1920)に実施され、翌大正10年の元日に結果が発表されています。きっかけは、佐佐木茂索(ささき もさく)が文芸部主任となって文芸欄を刷新したことでした。
- 選考委員は里見弴(さとみ とん)と久米正雄。
- この懸賞を仕切った佐佐木茂索は、のちに菊池寛とともに芥川賞・直木賞の創設にも関わります。
入選者を見ると——1位と2位が、のちの夫婦
| 順位 | 作品 | 応募名(筆名) | 正体 |
|---|---|---|---|
| 第1席 | 「脂紛の顔」 | 藤村千代 | 宇野千代 |
| 第2席 | 「獄中より」 | 尾崎泗作 | 尾崎士郎 |
| 第3席 | 「秋の一日」 | 八木東作 | 八木東作 |
| 選外入選 | 「踊見」ほか | 兼光左馬 ほか | 横光利一 ほか |
1位が宇野千代、2位が尾崎士郎。この二人は、のちに夫婦になります。ただしこの時点ではまだ赤の他人で、千代が原稿料をもらいに『中央公論』の滝田樗陰を訪ねたとき、尾崎士郎を紹介されて一目惚れしたのだといいます。
「文学の神様」と呼ばれた横光利一も、このときは選外入選。のちに川端康成とともに新感覚派を代表する作家になる人も、20歳過ぎの若書きの時期でした。
気になる「賞金の金額」200円?100円?
ここで一つ、資料によって金額が食い違う点があります。
- 宇野千代の年譜や複数のメディアは、「一等に当選し、賞金200円を得る」と記しています。
- いっぽう、公募の歴史をまとめた解説では、この懸賞の賞金を「第1席100円、第2席50円、第3席30円、選外10円」と紹介しています。
確実な点:千代が一等(第1席)に入選し、作家デビューにつながったこと。 不確かな点:受け取った賞金が200円だったのか、公募要項の100円だったのか。両方の記録が存在します。
この記事では、年譜・複数のメディアが伝える200円を軸に換算しています。「200円だった場合、今のいくらか」として読んでください。
大正10年は「物価が下がった年」だった
大正10年(1921)は、戦争景気の反動で物価が下がった年です。
- 日本銀行の企業物価指数(昭和9〜11年平均=1)でみると、大正9年は1.678、大正10年は1.296。1年で2割以上下がっています。
- つまり、同じ200円でも、大正9年と大正10年では買えるものが違うということです。
計算のしかた(3つのものさし)
| ものさし | 大正の1円 ≒ 今の | 出典 |
|---|---|---|
| 企業物価指数 | 約540〜1,500円 | 日本銀行「戦前基準指数」 |
| 米価(白米10kg・東京) | 約1,400〜4,600円 | 戦後昭和史(原典:大蔵省調査) |
| 給料(巡査の月給) | 約4,900〜14,700円 | 新居浜市立図書館「値段史年表」 |
- 企業物価指数:
912.9 ÷ 1.296 ≒ 704円(大正10年)。これに200円をかけて約14万円になります。 - 米価:当時の米の値段と、今の米の値段を比べます。
- 給料:当時の巡査の月給と、今の巡査の初任給(東京都・226,000円)を比べます。
出典・参考Webサイト一覧
| サイト名 | 内容・確認目的 | 備考 |
|---|---|---|
| 宇野千代生家「宇野千代年譜」 | 「脂粉の顔」が1等当選、賞金200円、2等は尾崎士郎、選外佳作は横光利一 | 一次資料に近い |
| Wikipedia「宇野千代」 | 大正10年『時事新報』懸賞短編小説に『脂粉の顔』が一等当選、賞金200円 | 二次資料 |
| 公募ガイド「文芸公募百年史 VOL.10 時事新報懸賞短編小説」 | 大正9年実施・翌大正10年元日に発表/賞金(第1席100円・第2席50円・第3席30円・選外10円)/選考委員は里見弴・久米正雄/入選者 | 二次資料 |
| 毎日新聞「『宇野千代』という生き方」 | 当時の公務員の初任給は70円程度 | 二次資料 |
| Wikipedia「時事新報」 | 明治15年・福澤諭吉創刊・戦前五大新聞 | 二次資料 |
| NHK『ブラッサム』公式サイト | 作品概要・放送情報 | 一次資料 |
| スキドラ「ブラッサム」全話ネタバレまとめ | ドラマの流れ | 一次資料(自作) |
| 日本銀行「教えて!にちぎん」歴史 | 企業物価指数 戦前基準指数 | 一次資料 |
| 新居浜市立図書館「値段史年表」 | 巡査の月給 | 一次資料 |
| 戦後昭和史「米価の推移」 | 白米10kgの値段(原典:大蔵省調査) | 二次資料(原典明記) |
| 国立国会図書館 リサーチ・ナビ | 物価・賃金の調べ方 | 一次資料 |
| スキドラ「大正の1円は今いくら?」 | 3つのものさしの考え方(親記事) | 一次資料(自作) |
| YouTube動画「大正の1円は今いくら?」 | 換算の考え方 | 一次資料(自作) |
関連動画・記事
- 【大正の1円は今いくら?】 3つのものさしの考え方をまとめた親記事です。
- 【ブラッサム】全話ネタバレあらすじ史実まとめ 週ごとの史実比較です。



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