朝ドラ『あんぱん』をきっかけに、やなせたかしの原点を探る人が増えています。その中で注目されているのが、1973年に創刊された詩雑誌『詩とメルヘン』。
サンリオから発行され、詩人としてのやなせたかしの世界観が色濃く表れたこの雑誌には、実はサンリオ創業者・辻信太郎との友情という誕生秘話がありました。
そしてもう一つ、やなせの詩精神の根底にあるのが、戦中から読み続けた井伏鱒二の影響。“さよならだけが人生だ”の精神は、やなせが描く「希望」と深くつながっています。
この記事では、やなせたかしと『詩とメルヘン』の誕生背景、サンリオとの縁、そして井伏鱒二との精神的つながりについて、わかりやすく解説していきます。
『詩とメルヘン』とは?子どもから大人まで愛された詩雑誌
“やなせたかし=アンパンマンの生みの親”というイメージが大きく忘れられそうですが、アンパンマンが有名になったのは、やなせたかし氏が70歳近くになってからのこと。それまでのやなせ氏は、“困ったときのやなせさん”で知られる、マルチクリエイターでした。
1973年創刊、サンリオから発行
雑誌の発行元はサンリオ。今でこそ東証プライムに上場し、“キャラクターグッズの会社”として誰もがしているサンリオですが、その前身は、県庁の外郭団体(官公庁の補完的な業務を行っている団体)を独立させた、株式会社山梨シルクセンター。
サンリオと社名変更したのは1973年4月、『詩とメルヘン』創刊は1973年5月。そう、雑誌『詩とメルヘン』創刊時期=サンリオに社名変更した時期でもあります。

山梨県庁の職員だった辻信太郎(つじ しんたろう)氏が創業。サンリオ創業者とやなせさんの関係については、次の見出しで紹介するよ~。
やなせ氏のライフワークの象徴とも言えるのが、1973年5月に誕生した雑誌『詩とメルヘン』。編集長は、アンパンマンの生みの親・やなせたかし。子ども向けと思われがちなこの雑誌、実は詩とイラストの“共演”による大人向けのヒーリングマガジンでもありました。
各号には多くの詩や短い物語が掲載され、どのページを開いても誰かの「心の声」と出会える──そんな雑誌。絵と詩が同じページで呼吸する“新しい表現”が詰まっていました。

「読者層は十才から九十才ぐらいまで」1を対象って…誰でも参加できるってこと!自分の作品にプロのイラストが付いて誌面を飾るって、夢みたい~♪
読者からの投稿も!愛され続けた雑誌文化
この雑誌の最大の特徴は、読者からの投稿を中心に作られていたことです。詩、イラスト、短い童話、メッセージ…。全国の小学生から年配の方まで、毎号多くの投稿が集まる一大文化現象でした。
やなせ氏が信じていたのは、「詩は特別な人のものではない」ということ。『詩とメルヘン』は、誰もが詩人になれる場所として、多くの人に希望を与えてきました。
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誕生の裏側:やなせたかしと辻信太郎の友情と出会い
『詩とメルヘン』の誕生には、もう一人のキーマンがいます。それが、サンリオ創業者・辻信太郎氏です。サンリオとやなせたかし氏の接点について、初めて知った方も多いのではないでしょうか。
サンリオ創業者が山梨県庁職員だったことにも驚きですが、サンリオ躍進の影にもやなせ氏が関わっていたとは…!サンリオ創業者・辻信太郎氏との関係について、見ていきましょう。
突然に訪ねて来た、サンリオの創業者
アンパンマンが有名になる前のやなせ氏は、“何でも屋さん”のマルチクリエイターでした。60年代にラジオドラマを手掛けていた当時、自作の詩歌詞が大量に手元にたまったことから本にしようと思い立ちます。手持ちの詩をまとめていた時、訪ねてきたのが辻信太郎氏でした。
当時のサンリオ(山梨シルクセンター)は社員6人ほどの小さな会社で、山梨県の特産品(シルク)販売、雑貨を販売している会社でした。同社の最初のヒット商品であるオリジナルパッケージを施した缶入りキャンディ。辻氏がやなせ氏の元を訪れたのは、商品のバリエーションを増やしたいという相談でした。2

サンリオといえば、豊富な商品バリエーション!パッケージデザインに目を付けた辻氏は、現在のサンリオに通じる先進的な目を持っていたんだね◎
パッケージデザインの仕事で繋がった辻氏とやなせ氏。ここから、やなせたかしの詩集『愛する歌』を発行するとヒット。何と、出版流通の知識がない辻氏は、東京出版販売(トーハン)に直接“どうしたら売れるのか?”と聞いたというから驚きです。

『愛する歌』は10万部のベストセラーに!サンリオは書籍部門を設け、様々な出版ビジネスを展開するようになります。
そして、この『愛する歌』の成功を受けて生まれたのが『詩とメルヘン』──サンリオの“メルヘン戦略”と、やなせの“希望の詩”が奇跡的に融合した雑誌でした。
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「商業と詩」が矛盾しなかった理由
“詩”というと、敷居が高く、売れないというイメージを持たれがちです。でも、やなせたかしにとって詩とは「生きる希望そのもの」でした。
「悲しいときに読む詩があってもいい。売るためじゃなく、誰かを励ますために」。この精神こそが、サンリオとやなせの共通点。「商業=悪」ではなく、「届ける手段としての商業」だったのです。

サンリオとやなせさんの相性、バッチリだったんだね。それにしても…サンリオの出版部門誕生にやなせ氏が関わっていたとは!

『詩とメルヘン』は、当時の評論家からは相手にされなかったそうだけど…1973年から2003年まで続くってスゴイ!読者が答えをくれたんだね~。
読者参加型の雑誌『詩とメルヘン』は、多くの人に受け入れられ、30年にわたり愛され続けた伝説の雑誌になりました。

やなせたかしと井伏鱒二:“詩人”としての精神的つながり
『あんぱん』でも折に触れて登場する、井伏鱒二の詩集の存在。第5週・第21回で、ヤムさんが嵩に言った「さよならだけが人生だ」は有名な名訳です。
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のぶは女子師範学校の寮に入るため朝田家から巣立つ。一方、浪人生の嵩は、医者になる自分が想像できず…
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やなせにとって井伏鱒二は“人生の師”のような存在
やなせたかしは、漫画家・絵本作家でありながら、「詩人」でもありました。そんな彼が心の支えとして読み続けたのが、井伏鱒二の『厄除け詩集』です。
この詩集に収録された「花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ」という一節は、やなせの人生観に深く根付いていました。「正義は勝たないこともある」「別れも、敗北も人生」──その“逆転しない”視点は、戦時中の挫折や無力感を経験した彼にとって、まさに“生き抜くための詩”だったのです。

悲しいことを無理に乗り越えなくてもいいって、やさしい考え方だね◎

『詩とメルヘン』にも井伏精神が息づく
『詩とメルヘン』には、井伏鱒二の影響があらゆる場面に現れています。
やなせは一貫して、「通俗と芸術の間に橋をかける」という使命を果たそうとしていました。それは、難しい詩を崇高なままで終わらせるのではなく、「誰もが受け取れる希望」に変えて届ける──詩とメルヘンの根底にある精神です。

幼児向け・大人向けと区別して作品を作らない、やなせ氏。赤ちゃんはお母さんの影響を受けるから、大人が見ても面白い作品でないといけないのだとか。

朝ドラ『あんぱん』との関係性:“詩人・やなせ”が描かれる理由
朝ドラ『あんぱん』の脚本家・中園ミホさんは、登場人物のセリフにやなせ氏の言葉を随所に忍ばせています。やなせ氏の言葉=影響を受けた詩人や作品のものも多く、おや?となることもしばしば…。漫画家・やなせたかしとは別の、マルチクリエイター・やなせたかしの一面が多く描かれています。
ドラマの裏テーマ=「言葉の力と希望」
朝ドラ『あんぱん』では、嵩を通して「詩と絵が生きる力になる」というメッセージが繰り返し語られます。嵩はまさに、若き日のやなせたかしがモデル。生前のやなせ氏を知る脚本家・中園ミホさんは『これ、やなせさんそのままじゃない?』とファーストシーンを見た時に鳥肌が立ったのだとか。4
この演出には、「希望の象徴が踏みにじられても、それでも人は言葉で救われる」というメッセージが込められているように思えます。
八木信之介=辻信太郎説も再注目
さらに注目されているのが、嵩を支える戦友の上等兵・八木信之介(妻夫木聡)。一部では、彼のモデルがサンリオ創業者・辻信太郎氏ではないかという説もあります。
やなせと辻の出会いがなければ、『詩とメルヘン』は生まれず、「詩人やなせたかし」の面は世に出なかったかもしれません。ドラマで描かれるのは、絵や言葉がどれだけ人を救うか、そして詩が“生きる手段”になり得るという希望です。

実際の辻氏は戦地に行っていないから、モデルではなさそう。詳しくは八木信之介のモデル考察の記事を見てね。
≫【考察】八木信之介(妻夫木聡)の実在モデルは誰?辻信太郎or新屋敷上等兵?
漫画だけにとどまらず、幅広い活躍を見せていたやなせ氏。日本を代表する企業・サンリオ創業者、辻信太郎との関係が朝ドラでどのように描かれるのかにも注目です。

まとめ:サンリオ出版部門にやなせたかしあり!『詩とメルヘン』が残したもの
『詩とメルヘン』は、やなせたかしの「詩人」としての魂が込められた伝説の雑誌でした。その誕生には、辻信太郎との偶然の出会いと友情があり、商業と芸術の枠を超えて「言葉の力」を伝える場となりました。
やなせが愛した井伏鱒二の“逆転しない詩”の精神もまた、悲しみや別れをも肯定するやさしい世界観として、やなせ作品に息づいています。朝ドラ『あんぱん』でも描かれた“詩の力”を、今こそもう一度手に取って味わってみてはいかがでしょうか。

アンパンマンを育てた場と言ってもいい『詩とメルヘン』。詳しくは、アンパンマン誕生秘話の記事をチェックしてね。
≫【アンパンマン誕生秘話】モデルはやなせたかし!フランケンシュタイン×井伏鱒二×太宰治が与えた影響とは
\詩雑誌『詩とメルヘン』が気になる方はこちら/
参考文献、資料:
- 詩とメルヘン(Wikipedia) ↩︎
- アンパンマンと日本人(柳瀬博一/新潮新書) ↩︎
- 朝ドラ「あんぱん」 脚本家・中園ミホ インタビュー(ステラnet) ↩︎
- <中園ミホ>文通相手だったやなせたかしさんは「報われてないけど優しいおじさん」 (Yahoo!ニュース) ↩︎
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