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【やなせたかし愛読書】井伏鱒二『厄除け詩集』とは?名訳“さよならだけが人生だ”、戦時下の魅力

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朝ドラ『あんぱん』の第11週で登場した一冊の詩集──それが、井伏鱒二の『厄除け詩集』です。嵩が軍隊に持参し、古兵に踏みつけられる場面に象徴されるように、この詩集は「戦時下における個人の心の拠り所」として静かに佇んでいました。

そしてこの詩集は、アンパンマンの生みの親・やなせたかしが愛読した本でもあります。

「花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ」──この名訳に込められた無常観や人生観は、やなせが掲げた“逆転しない正義”や“喜ばせごっこ”といった思想にも通じるもの。

本記事では、この『厄除け詩集』が持つ詩としての魅力、戦時下での存在意義、やなせたかしとの深い関係性について、ドラマの描写とともに掘り下げていきます。

ちゃはむ
ちゃはむ

『あんぱん』第27回(第5週)で、嵩が銀座の本屋で手にした詩集が、アンパンマンのルーツにもなるって…ドラマの細かな演出に感動だね◎

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『厄除け詩集』とは?【基本情報と特徴】

1937年、野田書房から刊行された井伏鱒二の『厄除け詩集』1は、彼の初期詩篇と漢詩の翻訳を収めた詩集です。この詩集には、井伏自身の詩に加え、中国古典詩の翻訳が含まれており、特に于武陵の『勧酒』の翻訳が有名です。

詩集のタイトル「厄除け」は、戦時下の不安定な時代において、読者に心の平穏をもたらすことを意図して名付けられたとされています。

井伏鱒二の作風は、ユーモアと哀愁を織り交ぜた独特のものであり、『厄除け詩集』はその代表的な作品の一つです。詩集は、日常の中にある小さな喜びや哀しみを描き出し、読者に共感を呼び起こします。また、戦時下においても多くの人々に愛読され、心の支えとなったとされています。

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“さよならだけが人生だ”とは?『勧酒』名訳の背景と意味

『厄除け詩集』に収められている于武陵の『勧酒』の翻訳、「花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ」は、井伏鱒二の名訳として広く知られています。この詩は、人生の無常や別れの切なさを表現しており、多くの人々の心に響いてきました。

朝ドラ『あんぱん』では、第5週・第21回で、ヤムさん(屋村草吉)が嵩をからかったシーンのセリフとして「さよならだけが人生だ」が描かれています。

また、第27回では、嵩が銀座の古書店で『厄除け詩集』を手に取る場面があり、詩集との出会いが彼の人生に影響を与える様子が描かれています。

おはむ
おはむ

“さよならだけが人生だ”って、なんだか切ないけど、心に残る言葉!嵩がこの詩に出会ったことで、彼の人生観が変わっていくのが感じられたよ。

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なぜ、やなせたかしの愛読書に?『厄除け詩集』が作品に与えた影響

やなせたかしは、自身の著書『アンパンマンの遺書』の「銀座学校」章で、井伏鱒二の作品に触れたことを記しています。彼は、「このフランケンシュタインと井伏鱒二と太宰治と、その他いろいろがごっちゃになって、後世アンパンマンをかく伏線となる」と述べており、井伏の作品が自身の創作に影響を与えたことを示唆しています。2

戦時中、やなせは軍隊生活の中で『厄除け詩集』を愛読し、心の支えとしていたとされています。詩集に込められた無常観や人間の哀しみへの共感が、やなせの「逆転しない正義」や「喜ばせごっこ」といった思想に影響を与え、後のアンパンマンの誕生につながったと考えられます。

ちゃはむ
ちゃはむ

やなせさんの創作の原点に、井伏鱒二の詩があったんだね。アンパンマンの優しさの裏には、そんな深い背景があったんだ…。

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『厄除け詩集』は戦時下で人気だったのか?

1937年に野田書房から刊行された井伏鱒二の詩集『厄除け詩集』は、戦時下の日本において特定の層に支持されました。特に、文学や詩に関心を持つ文化人や知識人の間で愛読されていたとされています。しかし、一般大衆の間で広く読まれていたかというと、その証拠は乏しく、限定的な人気であったと考えられます。

この詩集が発禁処分を受けなかった背景には、直接的な反戦や政治的なメッセージが含まれていなかったことが挙げられます。井伏の詩は、日常の哀愁や人生の無常を淡々と描くものであり、当局からの検閲を回避することができたのです。

発禁こそ免れましたが、大っぴらに賞揚されることもなく、再版が行われたのは戦後しばらく経ってから。1952年になって木馬社から復刻版が出され(限定350部)3、1977年にようやく講談社文芸文庫入りしています。

つまり、戦中は入手困難な幻の詩集だったと言えます。それでも人々の記憶と口承によって詩句が生き延びたこと自体、『厄除け詩集』が当時果たした精神的役割を物語るエピソードと言えるでしょう。

また、詩人の谷川俊太郎は『厄除け詩集』について「心をくすぐり、心に沁みる、まさにこの時代の厄を祓ってくれる名詩集」と評しています。4このような評価からも、同時代の文化人の間で高く評価されていたことが伺えます。

名もなき庶民の兵士たちにとって、ひそかな慰めとなったであろう『厄除け詩集』。大学で文学をかじったインテリ将校や、詩心を持つ召集兵が、前線や基地でこの小冊子を回し読みしたというエピソードが伝えられています。

おはむ
おはむ

戦地の慰問袋に詩集を忍ばせたケースも…。厄除け詩集は、まさに心の“厄除け”。戦時下でも、心の拠り所となる詩があったんだね◎

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細かな詩の引用シーンに注目!朝ドラ『あんぱん』、演出の意味を考察

朝ドラ『あんぱん』では、井伏鱒二の『厄除け詩集』が重要な小道具として登場します。第27回では、主人公の嵩が銀座の古書店でこの詩集を手に取る場面が描かれています。このシーンは、嵩が新たな価値観や思想に触れる転機を象徴しており、彼の内面的な成長を示唆しています。

一方、第11週では、嵩が軍隊に持参した『厄除け詩集』を古兵の馬場上等兵が見つけ、破り捨てるという衝撃的なシーンがあります。この場面は、個人の思想や感性が軍隊という集団の中で否定される現実を象徴しており、戦時下の抑圧的な社会構造を浮き彫りにしています。

これらの演出は、詩集が単なる書物以上の意味を持ち、登場人物の内面や社会の状況を映し出す鏡として機能していることを示しています。

愛書を汚され萎縮する嵩でしたが、教養のある先任兵・八木信之介上等兵(妻夫木聡)がその場に駆けつけ、馬場を叱責して暴挙を止めました。八木は嵩に軍人勅諭の暗記を命じる一方で、「実は自分も井伏鱒二の詩集が好きで、君から同じ匂いを感じた」と打ち明け、文学青年である嵩を密かにかばいます。

このシーンは戦時下で知的良心を失わない若者同士の共鳴を象徴しており、踏みにじられた詩集は逆に二人の友情を結ぶ小道具となっています。

ちゃはむ
ちゃはむ

詩集が登場人物の心情を映す鏡になってる!心の拠り所である詩集を破かれたのはショックだったけど、かけがえのない戦友と引き合わせてくれた詩集に感謝だね◎

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井伏鱒二とやなせたかし:思想の共鳴とその後の影響

やなせたかしは、井伏鱒二の作品に触れたことが自身の創作に大きな影響を与えたと述べています。特に『厄除け詩集』に収められた詩からは、人生の無常や哀愁を感じ取り、それが後の作品に反映されていると考えられます。

また、やなせは1973年に創刊した『詩とメルヘン』においても、井伏の詩のような日常の中にある小さな幸せや哀しみをテーマにした作品を多く掲載しています。

人はいつか別れる。さよならだけが人生だと旅立っていく。よく知っているのに悲しい。涙がこぼれる。

1996年11月号 掲載詩「明日 泣く」(川添エイコ)寸評

このように、井伏の詩精神はやなせの創作活動において重要な位置を占めていたのです。

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さらに、やなせの代表作『アンパンマン』においても、井伏の影響が見られます。アンパンマンは、自己犠牲を厭わず他者を助ける存在であり、その思想は井伏の詩に通じるものがあります。やなせが掲げた「逆転しない正義」という理念も、井伏の詩から得た人生観が基になっていると考えられます。

おはむ
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劇作家の寺山修司が「さよならだけが人生ならば、人生なんかいりません」と機知ある返歌を詠んだことでも有名だね。

後世のクリエイターたちにもインスピレーションを与えた井伏鱒二。『厄除け詩集』は時代を超えて愛され、引用され、生き続けている詩集です。井伏鱒二と言えば小説『山椒魚』『黒い雨』の文豪というイメージが強いかもしれません。

しかし、谷川俊太郎氏が指摘するように「本質的には詩人」でもあった井伏は、生涯にわたり折々に詩を書き残しました。

やなせと井伏鱒二本人との直接交流は記録に残っていませんが、弟子筋の太宰治を通して間接的な接点もあります。太宰は井伏を「先生」と慕い、戦後まもなく発表した未完の小説『グッド・バイ』あとがきで「唐詩選の五言絶句の中に人生足別離の一句があり、私の或る先輩はこれを『サヨナラダケガ人生ダ』と訳した」と井伏の名訳を紹介しました。5

ちゃはむ
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師の詩心を称える太宰の文章からも、当時の青年文化人に『厄除け詩集』の余韻が広がっていたことが窺えます。

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まとめ:アンパンマン誕生の裏に、井伏鱒二の影響あり

『厄除け詩集』は、井伏鱒二の淡々とした筆致で綴られた、戦時下の“厄”をそっと祓うような詩の数々が詰まった一冊です。やなせたかしにとっては、戦時中の不安や孤独を支える存在であり、やがて「アンパンマン」の思想へと結実していきました。

なかでも「さよならだけが人生だ」という言葉は、時代を超えて心に響く名訳であり、現代の私たちにとっても、生きるヒントとなる一行です。

『あんぱん』を通してこの詩集に出会った人々が、その奥深い世界に触れ、また新たな心のよりどころを見つけること──それこそが、この作品の持つ価値なのではないでしょうか。

おはむ
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幼児向けだと思いきや、知れば知るほど深い…アンパンマン生みの親やなせたかし氏の思想。気になる方は、関連書籍をチェックしよう。

≫【誕生秘話】アンパンマン=やなせたかし自身!ルーツはフランケンシュタイン×井伏鱒二×太宰治

参考文献、資料:

  1. 厄除け詩集(ふくやま文学館収蔵品データベース) ↩︎
  2. アンパンマンの遺書(やなせたかし) ↩︎
  3. 厄除け詩集(ふくやま文学館収蔵品データベース) ↩︎
  4. 対訳 厄除け詩集(井伏鱒二、ウィリアム・I・エリオット (翻訳)、西原 克政 (翻訳)) ↩︎
  5. 「もの思う葦」新潮文庫、新潮社 1980(昭和55)年9月25日発行(インターネットの図書館、青空文庫) ↩︎
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