第11週(12月8日〜)「ガンバレ、オジョウサマ。」:視聴率15.7%
明治24年(1891年)の新年を迎えた松江。ヘブンは、日本で初めてのお正月を過ごします。トキに羽織袴を着せてもらい、町の挨拶を覚えながら上機嫌。そこへ、錦織が年始の挨拶にやってきて、「これから学校以外では『ヘブンさん』と呼ばせてください」と申し出ます。
一年の抱負を尋ねられたヘブンは「ラストピースを見つけたい。日本滞在記を完成させるために、あと一つ良いテーマを見つけたい」と答え。トキはその言葉を聞いて、ヘブンが松江を離れるのではないかという不安を募らせます。
花田旅館で催された新年会では、ヘブンが乾杯の音頭を取りますが、その挨拶は「次の冬、私は松江にいない」という意味深な言葉を含み、宴の場が凍りつき――?
松野家にとってトキの月給20円は命綱であり、勘右衛門と司之介はヘブンを松江に留めるため、リヨを応援することを決めます。リヨもまた、城山稲荷神社で偶然を装ってヘブンを待ち伏せしたり、寒がりのヘブンのために江藤家にストーブを設置したりと本気です。
数日後、江藤家でヘブンの快気祝いが開かれ、ヘブンはストーブの前から離れません。
「松江に残って、私と夫婦になってもらえませんか」
――突然のリヨのプロポーズに、ヘブンは戸惑いながらも自らの過去を語り始めます。
ギリシャで生まれ、幼くして両親と別れ、アイルランドの叔母に育てられ、いくつもの国を転々とし、アメリカ・オハイオ州で新聞記者として働いたこと。黒人にルーツを持つマーサ(アリシア)と法律を超えて結婚したが、異人種間婚が州法で禁止されていたため新聞社を解雇され、別れを決意したこと――。
その後、「人と深く関わることをやめ、どこでもただの通りすがりの人間として生きる」と宣言した彼の思いに、集まった人々は言葉を失います。錦織は通訳役を務めながら、自分もヘブンにとって「ただの通りすがり」なのかと胸を痛めます。
その夜、リヨから贈られた鶯をヘブンはそっと放ち、トキは二人の関係が終わったことを暗黙に悟ります。翌朝、ヘブンが「ンダーーッ!」と大声をあげ、金縛りにあったことをトキが「金縛りだがね」と呟くなど、一瞬コメディのような息抜きもありました。
しかし、錦織がヘブンに「私ってあなたにとって何なんでしょうか?」と問うと、返ってきた言葉は「素晴らしい通訳」というだけ。翌日から錦織はヘブンを迎えに来なくなり、ヘブンはその理由すらわからぬまま、静かに松江の冬を見つめるのでした。
\11週の解説動画はこちら/

第11週の感想・見どころは…?
- ヘブンの“過去”と“運命”がついに明かされる重みある回。戯れや和みの中に、深い孤独と旅の終わりを感じさせ――?
- リヨの逆プロポーズとトキの不安、錦織の戸惑いという三者の想いが交錯し、人間模様が一気に動き出します。
- ヘブン=小泉八雲の実話を重ねた「通りすがりの人間」という宣言が、ドラマのテーマに新たな歴史的深みを与えています。
- 小泉八雲は、1850年ギリシャ・レフカダ島生まれ。母ローザ、父チャールズとも幼年期に別れ、アイルランド、アメリカと転々とし、新聞記者として働いた後、日本に渡来。
- オハイオ州シンシナティで、白人と黒人の混血女性アリシア・フォリーと結婚(当時の州法では異人種婚は違法)し、新聞社を解雇され、1年で離婚。
- 「どの国でも、ただの通りすがりとして生きる」という八雲の言葉は、ドラマのヘブンのセリフにそのまま反映されています。
第12週(12月15日〜)「カイダン、ネガイマス。」:視聴率
松江の冬もいよいよ本格的に。ヘブンは1週間以上、連日「金縛り」に悩まされていました。見かねたトキが「お祓い」を提案するものの、英語でうまく伝えられず四苦八苦。そんな折、ヘブンのもとを訪ねた錦織は「通りすがりの人間」というヘブンの言葉に落胆し、通訳としても距離を置くことを告げます。
やがてトキは錦織から「お祓い=exorcism」という英語を教わり、翌朝、ぎこちなくも「Let’s go to exorcism」とヘブンに伝えます。面白がったヘブンはその提案を快諾。松平家ゆかりの寺・大雄寺でお祓いを受けることに。住職は彼を気に入り、「この寺には“水飴を買う女”という怪談がございます」と語り始めます。その物語を聞いたヘブンは涙を流し、「カイダン、スバラシ」と感嘆の声を漏らすのでした。
帰宅後、怪談に魅了されたヘブンに対し、トキは「怪談ならよーけ知っちょります!」と胸を張ります。手にしたのは『本邦諸国奇談集』。しかしヘブンは「本を読むのではなく、あなた自身の言葉で話してほしい」と求め、トキは部屋を暗くして“鳥取の蒲団”を語り始めます。言葉は通じなくても、心は確かに通じ合う――。ヘブンは涙を流し、トキは彼の心に触れた手応えを感じます。
一方その頃、錦織は生徒・正木から「ヘブンが怪談を聞いて泣いた」と知らされ、「ラストピースか」とつぶやきます。怪談こそが、ヘブンが探していた“日本滞在記の最後のピース”なのだと。トキが語れば語るほど、それは完成に近づき――そして“別れの時”が迫っていくことを意味していました。
数日後、松野家に届いた1通の手紙。宛名はトキ、差出人は松野銀二郎。静かな松江の冬に、新たな波が訪れようとしていました。
\12週の解説動画はこちら/

第12週の感想・見どころは…?
ヘブンが“初めて涙した”怪談回。「水飴を買う女」と「鳥取の蒲団」という2つの物語を通じて、ドラマは“日本の影”=怪談文化の核心に踏み込みました。涙を誘うのは恐怖ではなく、そこに宿る“思いやり”と“別れの予感”。怪談が、2人の心を結び、同時に離していくという構成は見事です。
史実モデルの小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)も、実際に松江・大雄寺を訪れた際に怪談を聞いたと記録されています。『怪談』『知られぬ日本の面影』などに見られる“母性への憧れ”や“死者への共感”の原型は、この松江時代の体験から生まれたと言われています。
「語れば語るほど、別れが近づく」――この一文に、八雲と節子(セツ=トキ)の関係が凝縮されています。恋でもなく、友情でもない、文化を越えた魂の交流。第12週はその“静かな愛と別れ”の始まりを描いた、シリーズ屈指の名エピソードでした。
- トキ=セツが“語り部”になる必然性
ドラマでトキが怪談を語る場面はフィクションですが、モデルの小泉セツ(節子)もまた幼い頃から祖母・養母・親族から多くの物語や怪談を聞いて育った“語りの名手”だったことが記録に残っています。 - “ラストピース”とは何か?史実での意味
ドラマでのキーワード「ラストピース」は、史実でのハーンの心情と著作活動を象徴的に表したもの。松江での民話・怪談収集、セツからの口承の物語、日本文化への精神的な“共鳴”――。これらが揃って、初めてハーンの“日本滞在記=日本理解”が完成していきました。
なお、史実のハーンは松江生活の後まもなく熊本へ転勤し、のちに東京へ移ります。ドラマが描く「語れば語るほど、別れに近づく」という構造は、“松江での文化体験が完成すると、ハーンは次の土地へ移ってしまう”という史実の流れを踏まえた脚色です。
第13週(12月22日〜):視聴率
この週、動き始める「過去」と「現在」の恋――。トキのもとに届いたのは、かつての夫・銀二郎からの手紙。そこには「会社を起こして社長になった。4月の土曜日に松江へ行きたい」という、新しいスタートを告げる言葉が記されていました。
一方、ヘブンは、差出人が自分あての英語の手紙であることに気づき、思わず「ヤスム、ドウゾ」と休暇を許可してしまいます。その手紙の主は、ヘブンが大切にしていた写真の女性、イライザ・ベルズランドでした。
約束の日、松江では銀二郎とトキ、ヘブンとイライザ、四者が一堂に会します。月照寺にてトキが「大亀の怪談」を語り始めた途端、ヘブンの態度が一変し、二人だけの世界へ――。銀二郎もイライザも、その空気に入り込めないことを悟るのでした。
翌早朝、イライザは旅館を出て行き、銀二郎も松野家を訪れてトキの幸せを願い、身を引く決心を伝えます。そして松江大橋のたもとで、トキとヘブンはお互い一人だったはずが、自然と肩を並べて歩き出す――。この週は、恋と別れ、再出発が交錯し、物語の大きな転換点となりました。
\13週の解説動画はこちら/

第13週の感想・見どころは…?
イライザという“過去の恋人(想い人)”と、銀二郎という“元夫”というふたつの存在が同時に画面に現れることで、トキとヘブンの関係が初めて「誰と、どこで、どう生きるか」を自覚し始める瞬間が訪れます。
怪談を通じて2人だけの世界を創る演出が効いており、視聴者としても「この2人ならどうなるのか」という期待が一気に高まり…。実話モデルとしてのエリザベス・ビスランド(イライザのモデル)による、八雲との運命的な出会い・別れがドラマに色濃く反映されており、歴史ロマンとしても満たされる回でした。
ドラマでは、ヘブンが先に日本へ滞在し、後からイライザ(モデル:エリザベス・ビスランド)が来日するという設定ですが、実際にはエリザベス・ビスランドが先に来日し、そこからラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が影響を受けて日本に渡ったとされています。
またビスランドは八雲にとって“永遠の恋人”と呼ばれる存在であり、八雲亡き後にはその伝記を出版し、得た印税をすべて小泉セツをはじめとする遺族に送金したという実話が残っています。13週はこの実話のドラマ化でもあると言えるでしょう。
\八雲に想いを寄せていたのはビスランドの方だった!?史実は書籍でも確認できます/



コメント